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雲海に浮かぶ方舟
敷地は、山あいにできた田園の中にある。冷気が留まりやすい地形なのか、ある特定の時期の早朝、地表面に雲海がたなびくという、なんとも神秘的な現象が起こる。
施主ご夫婦が「無形の財産」と呼び愛しむ、この地特有の風景や自然環境を最大限に取り入れた家づくりがテーマとなった。
南側に広がる美しい田園風景と山並みを最大限楽しみたいという要望に応えるために、様々な場所と、それぞれの場所への風景の取り込み方を特徴あるものにすることで、豊かな体験をもたらすことを目指した。
例えば、通常は同一平面に配置されることが多いLDKはあえて分散配置している。リビングは2階に、ダイニングとキッチンは1階に分けて各階に配置している。
2階リビングの天井はあえて低く抑え、床から天井までの開口部をパノラミックに設置することで水平性を強調し、遠方まで見渡せる展望台のような空間を生み出した。
1階のダイニングは、吹き抜け空間の中に大判ガラスを用いて額縁を模した窓を設置し、田園風景を絵画のように切り取って見せている。また、インナーテラスと名付けた外部空間をダイニングの隣に配置した。ここは南側以外を屋根と壁に囲まれることで内部のような外部となり、天候に関わらず自然を楽しむことができる場所となる。これらを吹き抜けや大きな開口部で繋げることで、どの場所もおおらかなスケールの空間となっている。
このように一連の繋がりをもちつつも様々な場所があることにより、外部との関係における多様性と同時に、家族の距離感や来客などへの対応にも柔軟性をもたらし、より豊かな体験ができる住居となった。
こうした豊かな内部空間は、屋根と壁から成る門型のフレームで外部から守られる。そしてシンプルなフレームが作り出す外観が、豊かな自然の中に建つこの家をユニークな存在にしている。
このフレームは、南側開口面よりも十分に張り出して深い軒をつくる。真夏の強い陽射しは遮られ室内に侵入しない。南と北に適切に設けられた開口部により、家の中にはこの地特有の強い風が吹き抜け、快適な環境をつくりだしている。逆に冬は低い高度からの日照が部屋中に行き渡る。
ご入居後、「雲海が出ました!すごく綺麗!」という、リビングからの写メールをいただいた。施主が愛するこの地の特徴を最大限に活かした家づくりに成功したと確信した瞬間だった。
写真:石井紀久
Photo:Toshihisa Ishii
http://www.h3.dion.ne.jp/~stblitz/index.html
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